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大津地方裁判所 平成11年(行ウ)9号 判決

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告に対し、平成一一年一〇月一二日付けでなした一般廃棄物処理業の不許可処分を取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  当事者

(一) 原告は、主として一般廃棄物(汚泥・糞尿等)の収集及び運搬並びに、処理業や浄化槽の保守及び清掃並びに管理業等を目的として、平成一〇年四月一日に設立された会社である。

(二) 被告は、滋賀県伊香郡高月町、同郡木之本町、同郡余呉町及び同郡西浅井町(以下、それぞれ「高月町」、「木之本町」、「余呉町」、「西浅井町」といい、併せて「管内」という。)の区域におけるし尿及び汚泥やゴミの収集・処理等の管理をするために設けられた事務組合である伊香郡衛生プラント組合(以下「組合」という。)の管理者である。

2  一般廃棄物処理業の許可申請手続に関する条例・規則の規定

(一) 伊香郡衛生プラント組合廃棄物の処理および清掃に関する条例(昭和五〇年二月六日条例第一号、以下「条例」という。)八条は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)七条一項による許可(一般廃棄物処理業の許可)を受けようとする者は、別に定める許可申請を被告に提出しなければならないとする。

(二) 伊香郡衛生プラント組合廃棄物の処理および清掃に関する条例施行規則(昭和五五年二月五日規則第一号、以下「規則」という。)一二条は、条例八条に規定する一般廃棄物処理業の許可申請は別記様式第五号とするとし、別記様式第五号は、許可申請書の様式を示すとともに、添付書類として事業計画書のほか「その他管理者が必要と認める書類」を掲げている。

3  本件処分に至った経緯

(一) 原告は、平成一一年三月一二日、廃棄物処理法七条一項に基づき、管内の各町長から委託を受けた組合の管理者である被告に対して一般廃棄物処理業の許可申請(以下「本件申請」という。)をした。

(二) 被告は、平成一一年一〇月一二日、本件申請について、規則(別記様式第五号)の定める「その他管理者が必要と認める書類」として、有限会社伊香清掃センター(以下「伊香清掃センター」という。)作成にかかる「原告の許可申請に異議がない」旨の同意書(以下「同意書」という。)が必要と認めたにもかかわらず、これが添付されていないとして、許可できない旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

1  争点

本件申請に対し、被告が、伊香清掃センター作成に係る「原告の許可申請に異議がない」旨の同意書を添付書類として求めたことは不適法であって、それがないことを理由にして行った本件処分は違法となるか。

2  争点についての当事者の主張

(一) 被告の主張

(1) 許可・不許可についての裁量

一般廃棄物の許可をなすにあたっては、許可権者に広範な裁量権が与えられているというべきであり、その処分についても、それが社会通念上著しく妥当性を欠き、その与えられた裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、違法となるものではない。

(2) 本件処分の適法性

① 管内においては、これまで既存業者だけで一般廃棄物の収集運搬業務が支障なく行われており、新規業者を参入させる必要性が特に認められなかった。

他方、仮に、新規業者を参入させた場合、需要と供給のバランスが崩れて、既存許可業者の経営基盤を損ない、下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法がその一条において「この法律は、下水道の整備等によりその経営の基礎となる諸条件に著しい変化を生ずることとなる一般廃棄物処理業等について、その受ける著しい影響を緩和し、併せて経営の近代化及び規模の適正化を図るため計画を策定し、その実施を推進する等の措置を講ずることにより、その業務の安定を保持するとともに、廃棄物の適正な処理に資することを目的とする」としている趣旨に反することになるほか、業者間の過度の競争により混乱を生じたり、組合の処理能力を超える量の収集運搬投入がされることによる弊害が懸念される。

② 平成四年の生活排水処理基本計画における下水道の整備によって管内においては、近い将来汚泥等の要処理量が減少する見通しであり、その後現在までの間、現実に下水道等の整備が進渉し、要処理量は急速に減少したのであるから、新規業者の参入を認めると既存業者の経営状況が著しく悪化するおそれがある。

③ 原告は、伊香清掃センターの系列会社として、同社との協力関係を示して、浄化槽清掃業許可申請を申し入れるなどしていたが、その後、一転して対立・反目し合う関係となったのであり、仮に、原告が一般廃棄物処理業へ新規参入するのを認めると、既存業者である伊香清掃センターとの間のトラブルにより廃棄物の適正円滑な収集・運搬等の処理に支障を来しかねない危倶を抱かざるを得ない。

④ 右①ないし③の事情からすると、住民の生活環境の保全と公衆衛生の向上を阻害する結果とならないよう一般廃棄物の処理計画や処理方針に照らし、特に廃棄物処理法七条三項の要件充足性を検討する必要があったため、本件申請について添付資料として同意書の提出を求めたのであって不合理ではない。

⑤ 原告は、被告が原告に対し浄化槽清掃業の許可を与えたにもかかわらず、本件申請に対し不許可処分を行うことは、不合理であると主張するが(後記(二)(3)③)、浄化槽清掃業の許可は、いわゆる警察許可の性質を有するものであって、要件を満たす限り必ず許可を与えなければならないものであるのに対し、一般廃棄物処理業の許可は、それをするかどうかについて広範な裁量権が与えられていると解され、両者はその法的性質において全く異なるものであるから、右主張は失当である。

(二) 原告の主張

(1) 許可・不許可についての裁量

廃棄物処理法七条三項所定の要件該当性の判断に関しては、行政庁に広範な裁量権は認められているが(要件裁量)、要件を充たしているにもかかわらず、裁量で許可しないといういわゆる効果裁量は認められない。

(2) 規則一二条自体の違法性

廃棄物処理法七条では、許可権者が必要と認める書類を添附しないことが不許可事由になるとは規定されていないから、規則一二条、別紙様式五号は、同法に反し、同規則の適用を前提とする本件処分もまた違法である。

(3) 本件処分の違法性

① 原告と伊香清掃センターは、競合関係にある同業者で、既に一般廃棄物処理業を行っている同社が原告の新規参入に同意するはずはないから、同意書を要求することは、不合理である。

② 原告が新規参入したとしても浄化槽の数量に変化がない以上、組合への投入量に変化があるはずがない。また、管内では、現在伊香清掃センターと日の丸清掃社しか浄化槽汚泥処理をしておらず、原告が参入することで需要と供給のバランスが大きく崩れることはない。

③ 廃棄物処理法と浄化槽法は、浄化槽(汚泥の処理)に関する限り一般法と特別法との関係にあると解されるから、浄化槽清掃業の許可を受けた場合、浄化槽(汚泥の処理)に関する限り、一般廃棄物処理業の許可も当然に与えられるべきものであって、被告は、原告に対し、浄化槽清掃業の許可をしたにもかかわらず、本件申請に対し本件処分を行うことは不合理である。

第三当裁判所の判断

一  廃棄物処理法七条一項の一般廃棄物処理業の許可について

廃棄物処理法七条一項の一般廃棄物処理業の許可は、一般廃棄物の処理が市町村固有の事務であって本来市町村だけがそれを行い得るものであるところ、そのすべてを市町村自ら又は委託により行うことが困難な場合もあることから、そのような場合に、私人に対し一般廃棄物処理業の営業の一般的禁止を解除するというものである。

そして、どのような場合に右の一般的禁止を解除するのが適当かという判断については、市町村が生活環境保全上の支障を生じさせないように定めた一般廃棄物処理計画に適合する必要があることに照らすと(廃棄物処理法六条一項)、許可権者には、専門技術的政策的判断が尊重される広範な裁量権に委ねられているといえるから、当該処分は、許可権者の裁量権の行使が著しい逸脱又は濫用に当たる場合でなければ、違法とはならないというのが相当である。

二  規則十二条の適法性

規則十二条は、条例八条に規定する一般廃棄物処理業の許可申請は、別記様式第五号とするとし、別記様式第五号は、許可申請書の様式を示すとともに、添付書類として事業計画書のほか「その他管理者が必要と認める書類」を掲げている。

被告は、一般廃棄物処理業の許可・不許可を判断するに際し、廃棄物処理法七条三項各号の実体的要件の充足の有無を検討すべきものであるから、その検討のために、許可を申請した者に対し、添付書類を要求することが廃棄物処理法七条三項に違反するものということはできない。また、どのような添付書類を要求するのが適当かということは、個々の許可申請につき、その案件に応じて異なることが予想されるのであるから、右の添付書類として「その他管理者が必要と認める書類」という包括的任意的な記載をすることは、それが一般廃棄物処理計画に適合するかどうかなどの政策的判断のための資料であるという性質上やむをえない措置であって、廃棄物処理法七条三項に違反するものということはできない。

三  本件処分の適法性

そこで、進んで、被告が、原告に対し、規則の定める「その他管理者が必要と認める書類」として、伊香清掃センター作成に係る同意書を求めたことが、適法であったかどうかを検討する。

1  末尾括弧内記載の各証拠によれば、以下の各事実が認められる。

(一) 管内におけるし尿や浄化槽汚泥の要処理量の予測等

(1) 組合は、平成四年三月、生活排水処理基本計画(以下「基本計画」という。)を策定した。それによれば、管内の総人口は昭和六一年度から平成二年度まで三万一〇〇〇人台で推移し、平成二三年度(同計画の目標年次)まで同様に推移していくものと予測される一方で、し尿及び浄化槽汚泥の合計処理量は、昭和六一年度に一万一九五〇キロリットルであったものが平成二年度には一万三六五七キロリットルに増加し、更に公共下水道等の遅れや対象となる人口の増加等の影響で、平成七年度前後には一万五六二二キロリットルまで増加するが、その後平成二三年度には三九六九キロリットルまで減少すると予測されている。

(以上、乙一、乙二)

(2) 基本計画策定後、管内のし尿・浄化槽汚泥の処理量は、平成七年度には一万五四八〇キロリットルとなり、平成九年度には一万八四六〇キロリットルに達したものの、平成一〇年度には一万七五六一キロリットルとなって減少に転じ、平成一一年度は平成一〇年度より更に減少する見込みである(乙二)。

(3) 平成一〇年度現在の高月町、木之本町におけるし尿処理全体の計画によれば、し尿量及び浄化槽汚泥の合計要処理量は、高月町については平成一〇年度には一七・七五キロリットル/日であったものが、平成十六年度には一〇・九七キロリットル/日、平成二七年度には三.九〇キロリットル/日と、木之本町については、平成一〇年度には一八・三三キロリットル/日であったものが、平成一六年度には八・四九キロリットル/日、平成二七年度には〇・五三キロリットル/日と、急減することが予測されている(乙四)。

(二) 下水道の普及

西浅井町においては、集落排水(下水道)供用率が昭和六三年には一パーセントであったが、平成一一年には六八パーセントに上昇している(乙三)。

(三) 既存業者による処理量等

(1) 管内では、伊香清掃センター及び日の丸清掃社(伊香郡木之本町木之本八二三番地、A代表)が被告からし尿等の処理の委託を受けてそれに従事しているところ、平成一〇年度末現在、右二社の有するバキューム車は九台で、その積載量は合計二八キロリットルである(乙六、弁論の全趣旨)。

なお、同年度の一日あたりのし尿等の投入平均量は五九・九キロリットルである(乙二)。

(2) 平成一一年一〇月の伊香郡衛生処理場への総投入量は一二六万六四五〇リットルであるところ、伊香清掃センターの投入量は、その約八四・六パーセントにあたる一〇七万一四五〇リットルであって、日の丸清掃社の投入量はその残りである(乙七)。

(四) 同意書提出についての原告の態度

(1) 原告は、本件申請後である平成一一年四月二六日付け内容証明郵便で、被告に対し、速やかに許可することを促す旨の通知をし、同月二七日、右郵便は被告に配達された。

被告は、同年五月一〇日付け内容証明郵便で、原告に対し、規則の定める「その他管理者が必要と認める書類」として、同意書を必要と認めた旨回答し、本書面到達後四週間以内に同意書を本件許可申請書の添付書類として提出してもらいたい旨通知し、右郵便はそのころ原告に到達した。

原告は、被告に対し、同意書を必要とする理由を照会したところ、被告は、原告に対し、原告と伊香清掃センターとのトラブルにより廃棄物の適正かつ円滑な収集運搬等処理に支障を来しかねない危惧がある旨回答した。

原告は、被告に対し、その理由が理解できないとして、更に具体的な説明等を求めたが、被告から回答はなかった。

(以上、甲一の一、二、甲二の一、二、甲四の一、甲五の一、二、甲六ないし八、甲九の一、二)。

(2) 原告は、平成一一年七月二八日、被告に対し、本件申請を許可しないという不作為が違法であることの確認を求めて本件訴訟を提起した(この事実は当裁判所に顕著である。)。

そこで、被告は、同意書の提出がないことを理由として、同年一〇月一二日、本件処分を行った(甲一七)。

2(一)  右1認定によれば、管内のし尿・浄化槽汚泥の処理量は、昭和六一年度に一万一九五〇キロリットルであり、その後増加して、平成九年度には一万八四六〇キロリットルに達したものの、平成一〇年度には一万七五六一キロリットルに減少し、平成一一年度は更に減少する見込みであり、公共下水道などの普及に従って、右処理量は更に減少し、基本計画の目標年次である平成二三年度には三九六九キロリットルになると予測されているところ、被告から委託を受けてし尿等の処理に当たっている既存業者による処理量は平成一〇年度末現在、バキュームカー九台、積載量の合計は二八キロリットルで、同年度の一日当たりのし尿等の投入平均量は五九・九キロリットルであって、その処理能力は要処理量に比して不足しているとはいえないのであるから、被告において管内のし尿等の処理量や今後予想される処理量並びに既存業者の処理能力等に照らして、本件申請が、廃棄物処理法七条三項二号所定の「その申請の内容が一般廃棄物処理計画に適合するものであること」に該当しないものとして、これを不許可としたとしても、廃棄物処理法七条三項に違反するものであるということはできない。

しかしながら、前記一説示のとおり、被告は、本件申請の許可権者として、専門的技術的政策的判断が尊重される広範な裁量権を有しており、右裁量権の行使として、管内における廃棄物の適正かつ円滑な収集運搬等の処理の観点から、原告に対し、管内において被告の委託を受けてし尿等の処理にあたっている二業者のうち、新規業者の参入によって影響を受けることがより大きいと認められる、伊香郡衛生処理場へのし尿等の総投入量のうちの約八五パーセントの量を投入している業者の同意書の提出を求め、同意書の提出があれば、本件申請が廃棄物処理法七条三項二号所定の要件に該当するものとして、これを許可したとしても、右裁量権の範囲内のことであると解することができるから、廃棄物処理法七条三項に違反するということはできない。

そして、前記1認定のとおり、被告が、原告に対し、同意書の提出を求めたにもかかわらず、原告は、同意書を必要とする理由が理解できないとして、被告に対し、同意書の提出を求める具体的な理由等の説明を求め、被告がこれに回答しないので、本件申請についての不作為の違法確認訴訟を提起するなどしてきたのであって、原告は、被告の求める同意書を提出せず、かつ、提出する意思のないことを明らかにしているのであるから、被告が同意書の提出がないことを理由としてなした本件処分が、本件申請に対する許可権者として被告の有する裁量権の行使について著しい逸脱又は濫用があったものということはできない。

(二)  原告は、廃棄物処理法と浄化槽法は、浄化槽(汚泥の処理)に関する限り一般法と特別法との関係にあると解されるから、被告が原告に対し浄化槽清掃業の許可を与えたにもかかわらず、本件申請に対し不許可処分を行うことは不合理であると主張する。

たしかに、原告は、平成一〇年七月三〇日、被告に対し、営業区域を木ノ本町、高月町、余呉町、西浅井町とし、収集、運搬及び処分の方法を浄化槽による収集運搬、組合の施設への投入とするなどして、浄化槽法三五条一項の所定の浄化槽清掃業の許可を申請し、同年八月六日、条例を順守することを条件に被告の許可を受け、同年九月一八日、滋賀県知事に対し、滋賀県浄化槽保守点検業の登録に関する条例五条一項に基づき浄化槽保守点検業としての登録を申請し、同年一〇月二六日、同知事からその登録がなされた旨の通知を受けている(甲一〇の二、甲一一、甲一二)。

しかし、浄化槽法三五条の許可の制度は、生活環境の保全上の支障を生じさせないようにすることを目的として、浄化槽業を営むことを一般的に禁止し、法令の定める技術上の基準に適合し、かつ欠格事由に該当しない者に対してこの禁止を解除するといういわゆる警察許可の制度であるのに対し、廃棄物処理法七条の許可の制度は、生活環境保全上支障を生じさせないために、市町村が責任をもって定めた一般廃棄物処理計画との調整を図ることを目的として、一般廃棄物処理業を営むことを一般的に禁止し、右計画遂行上必要と認められたり、右計画との適合性が確保される場合に、この禁止を解除するといういわゆる計画許可の制度であって、両者は目的や性質を異にするものであるから、廃棄物処理法と浄化槽法とは浄化槽に関する限りにおいても一般法と特別法の関係に立つとは解されない。したがって、被告が原告に対し浄化槽清掃業の許可を与えたにもかかわらず、本件申請に対し不許可処分を行うことは何ら不合理であるとはいえず、原告の右主張は採用できない。

四  以上によれば、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 神吉正則 裁判官 佐賀義史 裁判官 後藤真孝)

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